どうもカゲロウです。

今日は久々に長文読解ということで、おもひでぽろぽろの海外レビューを翻訳していきたいと思います(というか、半年以上前からコツコツ翻訳してようやく完成したという感じです)

選んだ理由としては個人的にジブリの中でラピュタの次ぐらいに好きな作品だからという単純な理由です(笑)

じゃラピュタのほうをやれよって意見もあるかと思いますが、ラピュタはちょっと有名過ぎるかなぁ?と思ったのでこっちにしました(笑)。


当然ですがネタバレ注意です


今回は長文のため、翻訳元の英文を全部載せると煩わしく感じること、また長文の場合、ブログ主の英語力の問題で必ずどこかで翻訳につまづいてしまうところがでてきますが、そういう部分は前後の流れから判断して翻訳を行ったり、英文の直訳では意味が伝わりにくいところは意訳したり、わからないところは最悪カットしたりすることもあるため元の英文は載せていません。その点についてはご了承ください。もちろん誤訳があれば訂正していただけると嬉しいです。

おもひでぽろぽろ [DVD]

参照元:https://goo.gl/w1cihp





レビュアー 1人目(国:不明 性別:不明) 7/10点 
7人の方がこのレビューを役に立つと答えました


・脚本-若い女性が騒がしい都会を離れて、田舎で時間を過ごす。その過程で彼女は自身の子供の頃を思い出す。内容をざっくばらんにいえばそれだけである。これは主人公の女性が田舎に遊びに行く過程で、原作漫画の話を懐かしい思い出として挿入するという手法を取っている。

・登場人物たちの人間関係を見ると、普段見ているアニメよりもとてもそのやり取りが現実的なことに気づく。自分もこのアニメの主人公と同じように一番下の弟として生まれたが上2人の兄はとても仲が良いこともあって常に孤独を感じていた。そうこの主人公と自分は同じなのだ。孤独と言ってもそれはほんの微かでともすれば気づかないような孤独ではあった。だが、一方でそれは友達が1人もいないことよりもさらに寂しさを感じさせるものでもあった。
自分にはそういう生い立ちがあるので、このアニメの姉妹たちがどのような関係を築いているのか、それは自分が想像したようなものなのか興味を惹かれるものがあったのである。そして、そこでは伝統と文化に基づいた父親の冷たい仕打ちや不公平なひどい仕打ちが起こったりもする。


・人は自身が過去において失敗したことや生かせなかった機会を覚えているものである。この映画は要するに子供の頃のそうした嫌な思い出を今の人生を活気づけ激励してくれるものに変換してくれる。最後に主人公が下す結論は正しくもなり得るし間違いにもなり得る。「やらないで後悔するよりもやって後悔したほうがいい」というたぐいの言葉を聞いたことがあると思うが(自分はその考え全てに同意できないものの)、主人公がすべてを運命と諦めることなく、それに逆らい自ら未来を選び取っていくさまはとても魅力的だ。運命に逆らうと言っても、そこに心が痛むような複雑で刺激的なテーマがあったりするわけではなく、また、見ててわくわくするような話があるわけでもない。だが視聴者の共感を呼び起こすストーリーがあり、自然主義的でシンプルな生き方は少しだけ魅力的だ。ある意味で、他のジブリ作品よりも純粋な作品であるといえる。


・映画撮影術-この点に関しては、高畑勲は宮崎駿よりも優れている。キャラクターデザインはとてもいい。頬にえくぼができるところが特にいい。他のアニメに出てくるいわゆる「アニメキャラクター」にもこうした特徴を持つものがもっと増えてほしいと思っている。
そのアニメーションもなめらかに描写されている。これはまさに自分が望んでいた通りのものだ。
回想シーンを白い縁で表現する手法はよくある表現方法ではあるが別にそれは悪くない。映像の魅せ方に特別驚くような仕掛けはないが失敗しているわけでもない。ある意味でこの映画を初めて知ったときのイメージ通りのものを提供してくれる。


・音楽-頭からずっと離れなくなってしまうようなルーマニアンフルートを聞く準備はできたか?
音楽はとても素晴らしいこのことは誰も否定できない。
声についていうと、「これは普通の日本人の声じゃないか?」「そもそもこれはアニメと言えるのか?」と混乱する人もいるかもしれない。答えを言うと、どうやらこれは(いつも見ている)アニメではないようだ。
その理由は、登場人物たちが普通の日本語を喋るからである。というのはただ単に声優の演技力がどうこうというだけでなく、そこにあるセリフ、そして声を発する間がとてもリアルなのだ。リアルすぎて、彼らの会話を邪魔しているような気分にすらなってしまうほどである。


・最後にー自分はエンディングの解釈というのは広い解釈ができるものであるべきと考えているが、この映画はそうではない。主人公は最後に劇中ともに過ごした男といっしょになることを決断する。漫画ではどういう結末だったかは知らないが、映画の製作者が違う選択を選んでもいいだけの余地は十分にあったと思うし、視聴者に結局彼女はどんな道を選択をしたのだろうか?と考えさせるエンディングでも良かったと思うが、実際のそれはいささか予定調和的で刺激的な部分はなかった。


・この映画はとても落ち着いて見ていられるタイプの映画だ。そのシンプルな構成には特に文句はない。だが、自分が主人公とある種心が通い合った部分があるからといって、そこまで素晴らしい作品というわけでもない。過去の記憶、ノスタルジー、人間関係のリアルな描写は素直に称賛したいものの、逆に言うとこの映画にあるのはそれだけだ。嘘は付きたくない。見てて時に退屈になる場面がいくつかった。自分が興味を惹かれたのは主人公の最後の決断だが・・・・その結論は結局・・・・・
だが、こういう現実的な描写をしている映画はいつも自分はどういうわけか好きになってしまう。それがある意味この映画を好きな理由かな。

以上


ラピュタの次ぐらいに好きとか言っておきながら、海外のレビューを翻訳するまで原作の存在を知りませんでしたw

おもひでぽろぽろ 愛蔵版
岡本蛍:原作, 刀根夕子:画
青林堂





レビュアー 2人目(国:不明 性別:男) 9/10点 
49人の方がこのレビューを役に立つと答えました


・私たちはときに、平均的な作品に対してその真の価値のようなものを論じるとき過大評価したがる傾向がある。それはテレビの影響だったり、インターネット上にあふれるセックスと暴力の映像を当たり前に見て育ってきた子供たちによって人気アニメが決まるという事実によって起きている部分もある。そうアニメは主にこの2つ(セックスと暴力)によってでてきている。たしかにその2つの要素を入れた作品を作るのは、貴重で価値あるものを作ろうとするよりも簡単なところがある。おもひでぽろぽろはそうしたアニメが溢れる中で数少ない深みのあるアニメであり、また過小評価された作品である。
おもひでぽろぽろのような作品は、上で述べたようなセックスと暴力に満ち溢れた作品を過大評価する傾向が止まらない限り、いずれ消えてなくなってしまうだろう。



・まず最初にこの作品の話の展開が単純に好きだと言わなければならない。そして、それだけでなくそのテンポもとても素晴らしい
(個人的な意見だが)

(記憶が確かなら)タエ子という30前の女性(主人公)が田舎に行くというところから物語は始まる(その旅は、彼女が本当に必要としているものを手に入れるための、そして自分の気持ちを理解するための旅なのだ)
人はある時点で、今までの人生を整理し、自身がこれから進む道を決めていかなくてはならない。タエ子もそうした思いがどこかにあったのだろうか?彼女は休暇をとり、田舎に行くことを決めた。


この映画は、そのタエ子の子供の頃の思い出で満たされている。ここに現れる少女のタエ子は、彼女の将来への不安、そして無垢で単純な思考で満たされていた子供の頃の夢が擬人化したものと見ることができる。物語はゆっくり進んでいくが、それは実際に我々がおくる普通の生活というものがそうだからである。だからこれに問題はない。この映画における素晴らしい部分は、プロットが全体として平穏なところ
(だからといって退屈なものではない。そこを履き違えないでほしい)と同時に地に足が着いていて現実的ということである。


・背景画はとても美しく描かれている。だが、この作品は1991年に作られたものであるから、新海誠レベルのものを期待してはいけない。登場人物たちは凝った装飾などを身に着けてなどおらずその造形もシンプルなものであるが、とりあえず私個人の話で言えば、この作画に満足したと言っておきたい。



・音楽については、正直言うとよく覚えていない。逆に言うと覚えていないのだから良かったのだろう
(それが酷い音楽なら覚えていると思うので)。次に声優はというとその演技は平均以上である。それはエンディングテーマにも同じことがいえる。エンディングテーマはこの映画を見たことであなたの中で湧き起こる感情を簡潔に要約したものになっている(とりあえず、このエンディングテーマを飛ばさず、最後の最後までちゃんと見て欲しいそうすれば言っていることがわかると思う!)


・登場人物たちはみな複雑な性格をしているが、それは実際の人間がそういうものなのであってやりすぎというほどでもない。タエ子がこうして田舎に来て自分を見つめ直す旅をしようとするその動機はとても地に足の着いたものである。彼女の小学5年生に起こった出来事
(初恋、テストの結果といった子供のときに誰もが通る傷つきながらの成長の証)は視聴者も当然通ってきた道であり共感を呼び起こすものになっている。
もうひとつ言わせてもらうと、社会人になると私たちは仕事のために朝8時から夜8時まで働き、色々な人間関係に悩まされ、そして現実に折り合いつけさせられる。そしてその若い情熱も強靭さも日々の暮らしの中で摩耗していく。タエ子はそうした現在の生活に風穴を開けるため休暇を取った。あなたはどうだろう?彼女の気持ちに共感しないか?


・最後にー真に素晴らしいアニメというのはそんなに多くないと言わなければならない。だが、そうした中にあって、おもひでぽろぽろは我々が日常を送る上で実際に出くわす単純な問題と楽しさを美しいアニメにして描いてくれた。
このアニメのその平易で平穏な内容が逆に私にはとても印象的だった。恋愛要素などもあったりするが、「君のためなら死ねる」といった壮大なものではなく
(今までそんなテーマの作品を嫌になるほど見てきた)、普通の男女が出会い生まれるシンプルな愛情である。我々が普段当たり前に目にする日常をテーマにしながら、優れた美的感覚でもって素晴らしい作品に作り上げた。自分にとってこの映画は1秒も見落とすことのできない魔法のような作品だ。
最後に、素晴らしいアニメを探しているすべての人に、この「おもひでぽろぽろ」を強く勧めたい。




レビュアー 3人目(国:不明 性別:男性) 10/10点 
64人の方がこのレビューを役に立つと答えました


・ある家族がみんなでパイナップルを食べ、激しいリアクションをしているところを見たい、ただキャラクターが動いているところを見ているだけなのにほとんど泣いてしまいそうな気分になりたい・・・それとも、最近の怠惰なアニメーターの作る作品に飽き飽きしているというのならこの過小評価された最高傑作以外にオススメできる作品はない。

そうそれが「おもひでぽろぽろ」である。


・どうして「おもひでぽろぽろ」が最も現実的なアニメ映画であるといえるのか、その理由は、製作者が、キャラクターの動きにとてつもない注意を払って作っているからである。かすかに動く目、口の動きなど、なにかあるごとにキャラが全身を使ってリアクションをする。それにより視聴者は一回見ただけですぐに登場人物たちの感情や考え、そして彼らの問題の解決のやり方を体感することができる。同時に主人公が物語の中心人物であることも忘れていない。これはとても重要なことである。
(神の視点ではなく、主人公の視点を中心にストーリーが展開することで)物語が次にどうなるのか視聴者が予測することを防ぎつつ、登場人物たちのリアルな存在を、そして、この作品の世界と視聴者の生きる世界が断絶されたものではないことを感じることができるのである。


・もう一つ重要なことは、音声がアニメーションそれ自体が完成する前に録音するという手法をとることで、セリフとキャラクターの動きを完璧にあわせていることである。そのセリフの基となる脚本それ自体も、このプロジェクトに心血を注いでいる人間が人間同士の間で起こる肉体的精神的な反応と相互関係への表現方法に十分に留意して書いている。私が言っていることがよくわからないと思う人もいるかもしれないが、この作品を見れば最近の脚本家たちの活気のなさ、やる気のなさがわかるということである。


・この映画は「seriousness(真剣、本気、真面目)」という単語の意味を新たに一段高いレベルで定義している。つまりある意味でこの「おもひでぽろぽろ」よりも「serious」な作品はこの世に存在しないと言えるかもしれない。たとえどんなにそうした映画を作ろうとしても、他の監督、制作会社ではこのレベルのseriousな作品を作ることは出来ないだろう。なぜなら、素晴らしい映画を作るのに絶対不可欠なことは、人がみたいと思うような映画を撮ろうとしないことだからである。言い換えれば、「おもひでぽろぽろ」はとても単純だ。若い女性が田舎に行って、そこで彼女を温かく迎えてくれる人々に囲まれながら、自身の子供時代を思い出すというだけの話である。この映画のコンセプトは単純でわかりやすいものだが、そのコンセプトをしっかりと表現するためには、最初に考えていたものより遥かにすごいものをあらゆる点で作り出さなければいけない。


・ノスタルジックで胸が張り裂けそうな映画というものは、キャラクターたちのセリフ、色使い、影の付け方といった部分の描き方というものをよくわかっている。このレビューを読んだら一度じっくりとキャラクターの顔を眺めて見てほしい、ここは本当に素晴らしいと思う。一方で、この映画の顔の造形は、髪型と髪の色以外ほとんど変わらないなどの数多の批判を受けてきたのを私は知っている。それはつまりただ「私達自身」が実のところ大して見た目が変わらないということなのである。だから、そうした批判があるにせよ、それでもこの映画は他とは別次元のリアリズムを追求した映画ということができる。


・「おもひでぽろぽろ」はその上映中の2時間ずっと自分を笑顔のままにしてくれる。これもすべて高畑勲の素晴らしい監督スキルのおかげだ。
この映画はとても大人向けの映画だ。だが多くのアニメが血と暴力で満たされた家族向けでも子供向けでもないアニメばかりの現状を考えたとき、この「大人向け」という言葉はさして意味をもたない。また、このアニメを子どもたちに、「お父さん(お母さん)はこの映画を見て人生観が変わったんだよ」みたいなそんな話をしたとしても、子供がこれを好きになるとは思わない。なぜならこの作品は高畑勲の他の作品、例えば「赤毛のアン」とか「アルプスの少女ハイジ」とは明らかに性質が異なるからだ。「おもひでぽろぽろ」の主人公は、それらの主人公よりも年上ということもあり、大人たちと同じように子どもたちがそれを理解したり、その真価を見極められるとは思わない。この映画はそういう意味でかなり冒険的な作品だった。この作品のアイデアはむしろ実写映画で実現されていた可能性のほうが大きいのではないだろうか。


この映画は、蝶がついに自分の羽を見つけ羽ばたくまでのストーリーである。だが、だが振り返ってみるとそれまでの過程で無意味に羽をばたつかせていたことにも気づく。
最近の映画はつまらないものばっかだなということに気づきたい人たちにはこの「おもひでぽろぽろ」はとてもオススメである。

ストーリー・プロット:8/10
アニメーション/作画:9/10
音響:10/10
キャラクター:9/10
楽しさ:10/10
総評:10/10

Thank you, Isao Takahata.







レビュアー 4人目(国:英国 性別:男性) 9/10点 
225人の方がこのレビューを役に立つと答えました


・ときおり、ふと自分自身になぜ自分はアニメが好きなのか、なにがそんなにも自分の中で特別なのか問いかけていることに気づく、1つの答えとして、こんな風な答えをあなたは聞いたことがあるかもしれない。「アニメは子供向けじゃない、大人の視聴にも耐えうるものだからさ」。自分もかつてはこんなことを言っていた気がする。

だがその大人向けと言われるアニメの多くを頭に思い描くと、確かにセックスや死、その他子供が見るには複雑すぎると思われるいわゆる「大人のテーマ」をもったアニメがたくさんある。だが、考えてみるとアニメは、率直に言って、そんなに複雑なテーマを取り扱っているものは多くない。少なくとも、アメリカの平均的なドラマといえる24やスタートレックなどよりも複雑なテーマを扱っているアニメというものは見たことがない。アニメは確かに子供向けではないのかもしれない。ただ10代の子を対象にしているアニメというものはほとんどない、というわけではない
(これは自分の気づいたことへの見解であり、もちろん批判ではない)。しかし、ほんの一握りだが確かにそういう本当の意味で大人向けのアニメもある。そうした数少ないアニメは、アニメというものがそのジャンルやスタイルに関係なく、どれだけ大人向けで繊細なものになりうるか、そして真に注目すべき作品がアニメにもあるんだというその良い例として祀り上げられる。
自分は、そうした数少ないアニメ作品の中にこの「おもひでぽろぽろ」を追加できることを今本当に嬉しく思っている。


・まず第一にジブリについて触れたい。私はブランドというものは概して信頼していないタイプなのだが、一貫して最高水準のアニメを提供してくれるだろうという安心感を感じる名前が存在する。それがスタジオ・ジブリだ。この作品では、あの有名な宮崎駿は監督ではなくプロデューサーの立場であり、火垂るの墓で有名な高畑勲が監督を務める。視聴者の期待通りの作品を作る素晴らしいコンビだが、この作品は視聴者がこの2人に期待するものとはちょっと違うかもしれない。

というのも、おもひでぽろぽろは他のジブリ映画と違って子供が親しみやすいものではないからである。この作品は、子どもたちが大好きなとなりのトトロや風の谷のナウシカというような、楽しく愉快なキャラクターとワクワクするシチュエーションのあるアニメではない。
この作品についてMyAnimeList※この翻訳元のサイトを見ると日常系(Slice of Life)のタグがついているのがわかるが、これがこのアニメの一般的な説明になると思う。このタグはいつもはそこまで信用出来ないのだが、この作品に関してはとても正しい表記だ。

物語の概要は、27歳のOLタエ子が、休暇を使って農家の手伝いをしつつ、10歳の自分自身の思い出を回想するという話である。そうした経験を通じてタエ子は自らの人生における選択を決めていく。
この見せ方は自分の考えうる限り最高の方法だと思う。この作品に出てくる日常はとても人を魅了する。一見アットホームな内容に見せて、地味に胸がえぐられる気持ちにもなる。だが、この作品のもつ家族間のドラマ、都会と田舎、大人と子供の微妙な違いといったものの真価を理解できる子供はほとんどいないだろう。私がなにを言いたいかというと、この作品を典型的なジブリ映画と勘違いして、子供の前に差し出したら、子供が退屈するのは当然だということである。だが、同時に子供ではなくあなた自身がこの映画に夢中になっていることにも気づく。


・このおもひでぽろぽろは、アニメというものは大きな目をした魔法少女、ツンツンヘアーの剣士、巨大ロボ、可愛らしさを誇張して描いた動物、奇妙な形の猥褻な触手しかないと確信している人たちに、大人向けのアニメもあるというとても強烈なカウンター作品になる。
大人のタエ子役の今井美樹、トシオ役の柳葉敏郎、若い頃のタエ子の役の本名陽子の演技は自然で真に迫るとても素晴らしいもので見事という他ない。その他の役の人たちもその才能を十分に発揮した。
脚本もおそらく今まで出会ってきたアニメの中で最高と言ってもいいものだろう。脚本が単純にみえる作品というものはとても良いものである。
自然な会話を使い、思い出のもつ力と衝撃、何年も自身の頭にトゲのように突き刺さっている出来事、今まで学んできた物事があなたの人生を一気に変えてしまうこともあるという現実をこの作品は見事に描き切った。
自分にはとても心揺さぶられる映画だった。自分は男で、英国人で、ガーデニングとか大嫌いな人間だが、
(タエ子と歳の近い)26歳になる者として、タエ子の中に自分自身をみた気がする。どういうわけかはわからないがこの映画には決して色褪せることのない自身の子供時代の思い出と重なることが多い。子供時代というのはどこの国の子供も同じような経験をしているということなのだろうか。


・作画だが、こちらもいつものジブリの基準で作られた素晴らしいものである。ところが面白いことに、登場人物たちの顔を見ているとなんだか少し気になり不思議に思い始める。それはいつものジブリ映画とはなにかが少し違っているからだ。その描写がなんだかちょっと変なのだ。その疑問はDVDについてくるメイキング映像をみることでようやく氷解した。高畑とそこで働く人たちは、作画について筋肉の動きに着目することを決めたようだ。つまり、大人のキャラクターには現実的なまでに頬骨が浮き出たりなど、他の作画がすごいと言われるアニメでさえ無視される部分に注力し描くことに決めたのだ。
そうしたわずかな表情の変化を逃さず拾い上げることで、普通よりも広く細かな表情の変化をつけることに成功している。これはもはやハイパーリアリズムの1つである。これは本当にレアなケースだが、まるで実写ドラマを見るかのようにその顔の表情を読み取ることができる自分に気づく。これがアニメの作品であることすらしばし忘れてしまうほどである。他にも色使いが信じられないほど美しい。お金のかけ方でいえば標準的なジブリ映画なのだろうけど、これより印象的な作品を見たことがない。その中でもタエ子が働いているところに昇る太陽の描き方は際立っている。ここはすごく素敵で技術的にも驚きべきものがある。そのシーンは一瞬だが注目に値する。そしてタエ子が子供時代を回想するシーンにおいては全体として少しだけ色褪せた色使いがなされ、現在の場面に切り替わるとそれが明るい色になる。これにより今が回想なのか現在の場面なのか視聴者がわからなくなることはない。


・音楽は星勝によって作られた。その音楽は驚異的なほど素晴らしいというほどではないが、平穏な曲調は聞いていて心地よくとてもこの映画に合っている。
だが、そこにその主役を奪う素晴らしい音楽が登場する。ハンガリーの民族音楽である!この映画にこの音楽は奇妙な・・・奇妙な選択だ・・・だが合っている。とても記憶に残る曲だ。落ち着いた淡い音楽でありながらなにか含みをもたせたような、そして穏やかだが
(しばしば他のジブリ作品でも出会う)巨大な自然のパワーを感じる曲である。論理的にいえば、この映画にハンガリーの民族音楽は合わなそうだが、しかし実際にうまくあっている。それと都はるみの歌うエンディングも素敵な曲だ。この映画には本当にこのエンディング曲がピッタリあっている。


・ことによると、この映画が単にアニメであるということで批判的な人もいるかもしれない。1991年当時でさえ、おもひでぽろぽろの実写映画化は難しいものではなかっただろう。この映画にはファンタジー世界のような景観もなければ、重力に逆らったようなコスチュームや髪型といった日常から外れたものなどなにもないからだ。けど、もう一度言いたい、この作品が印象的だったのは、あえて実写化できるものアニメで描くというリスクを背負って作られたからだ。

実写映画なら、画のタッチ、スタイルを決める必要もなく容易に作ることができることから、新しいアニメスタイルと素晴らしい才能で描かれたこの作品はより良いものにならざるを得ない。まず第一、アニメファンがよくそうするように、その細かい作画に目を向ければ、とても効果的に描かれているのがわかる。女性が花を摘む場面などは写真と同じレベルの驚くほど素晴らしいものがアニメになって描かれている。それと、視聴者は絶えずそのシームレスに描かれる日常の世界に、これがアニメであると知りつつも現実の世界ものではないか信じ込まされてしまうほどである。

最後の最後の場面では、現実の世界とは思えないものに出くわすことになるが、それは実際に見ればわかるが、とても自然な形で謙虚に描かれ、今までの世界観を壊すものではない。その場面を見た者は、「うん、これはいいアイデアだね」というよりも、そのシーンのインパクトに感情が揺さぶられなにも言えなくなってしまう。


・もしこの映画になにか欠点があるとするなら、それはおそらく進行スピードだろう。それはこの映画が自然な時間の進み方をするものだからだ。そして、ところどころだがゆっくりすぎる展開も見られる。それは大体の場合、タエ子の思い出と関係しており、その中に1つ、2つは特段必要ないのではないか思えるものもある。自分はそこに感動したりすることもある一方で、この作品が完璧なものではないことも知っている。それゆえにこの映画は一度に最後まで見ることはできない。そう、この映画の魅力を最大限に引き出すためにはまず自身をこの映画を見る適切な状態にしないといけない。故に自分は数ヶ月見るのを待たなければいけなかった。そしてようやく今朝この映画を見終わったのである。

もしあなたがこの映画に批判的になることがあるとすれば、このレビューを読んだあとで、自分にはこの映画は合わないと知りつつも、なぜか爆発シーンやカーチェイス、ハードボイルドアクションなどを期待してこれを見てしまう場合である。

この映画はそういう類いの映画ではない。おもひでぽろぽろは、繊細かつ成熟した現実感のある大人たちのドラマを描いたアニメなのである。





おわりに


ラピュタのようにいつ見ても同じワクワクと感動を与えてくれる映画もすごいと思うのですが、この映画のように子供の時に見たときの印象と大人になってから見た印象が全然違うものになるタイプの映画も不思議な気分になれてすきです。


個人的には「フォーリング・ダウン」という映画も子供の頃見たときはただのおバカ映画にしか見えなかったのに(失礼)、大人になってから見ると妙にしんみりしてしまったりします。




おもひでぽろぽろ 愛蔵版
岡本蛍:原作, 刀根夕子:画
青林堂


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